コント、新喜劇、テレビ番組などの制作の現場には「構成作家」と呼ばれる人たちの存在がある。笑いを裏から支えるその仕事について、芸人でありながら、構成作家としても活躍している、お笑いユニットザ・プラン9の お~い!久馬こと、久馬 歩(きゅうま あゆむ)さんにお話をうかがった。
久馬さんは、1991年に吉本興業のタレント発掘・育成部門の「NSC(吉本総合芸能学院)」を卒業し、芸人としてデビュー。現在はお笑いユニット「ザ・プラン9」のメンバーとして活動するほか、新喜劇や漫才、ドラマなどの構成や脚本を手掛けている。
「NSC時代から、先生に『お前は作家になれ』と言われていた」と語る久馬さん。現在は芸人としての仕事より、構成作家としての仕事の方が多いそうだ。「芸人も構成作家もどちらも笑いを作るという仕事だけれども、出る方の芸人は緊張感がある。昔からよくネタを書いてくれと言われていて、その頃は自分の書いたネタで他の人がウケるのは嫌だなと思っていたけれど、今は全然そんなことはない。自分が書いたネタがウケているのを見ると嬉しい。『人を笑かしてお金もらうって、変な仕事やな。自分何やってるんやろう』って思うこともあるけど、やっぱり好きじゃないと続かない」とやりがいを語る。
構成作家の役割について「芸人は表で笑いを取るのに対し、裏方としてそれを支えるのが作家。芸人にとっては潤滑油みたいなもの」という久馬さん。向いている人として「発想が豊かでいい意味で普通じゃない人や、学生時代にあんまり友達がいなくて、ひたすら1つのことを突き詰めてきた人や、周りからは扱いにくいと思われていたような人」を挙げ、「こういう世界では本当にありがたい存在になる」と言う。「うちのヤナギブソン(ザ・プラン9)なんかも、パンだとか、ロックとか、いろんなことに詳しいので、それが仕事でも役立っている。構成作家の中でも、ネタを考えるのが得意な人もいれば、ネタはいまいちだけれども、コーナーを考えるのが得意な人もいるけれど、『これはアイツに聞こう』と思われるような得意分野があればいい」。芸人の立場としても、そのような構成作家は「ありがたい存在」だそうで、「新しいワードをもらえるので、発想の刺激になる」という。そのほか、芸人にとってありがたい存在なのが「フィードバックがしっかりできて、ダメだったときに『こうしましょう』と言うように、機転がきく人」「一緒にいてよく笑ってくれる人。笑ってもらえるとより拍車がかかる」と言う。
構成作家は日々企画やネタ作りなどをしているが、その発想力はどのようにして身に着けられるのか。発想を鍛える方法について久馬さんは「1つの物に対していろんな角度から考えると良いと思う。0から1を作るのではなく、1を探す。1は必ずどこかにある」と言う。そのためか自身はネタ作りで煮詰まったりすることがあまりないそうで、「物の数だけコントが生まれると思っている」と話す。
久馬さんは、2012年より、よしもとのスタッフ分野の養成校「よしもとクリエイティブカレッジ(=YCC)」の講師も務めている。講師の仕事について「教科書はないので、自分の経験から教えている。書いてきてもらったネタを見て『ここは削った方がいい』とか、アドバイスをしている。同じネタでも、相手が違えば反応も違うので、すべり方は教えられるけれど、ウケ方を教えるのは難しい。笑いには正解がないので」と語る。
2008年に設立されたYCCは、今年で10年目を迎え、「業界内でもYCC出身だという人が増えてきている」という。「YCCは講師が現役の芸人や作家などが多いので、横のつながりができやすい。当時の教え子と舞台やTVなどで共演することもあるけれど、生徒と仕事をするときはちょっと恥ずかしい。スベられないし(笑)」と、久馬さん。生徒は「20代が中心。授業は土日のみなので、ダブルスクールの方も多い。中には『仕事投げ出してきました!』という方もいるけれど、授業は土日しかないから(笑)。気軽に通うことができるし、もし他の分野に行くことになったとしても、ここで学んだことは生かせるものが多いと思う」と、その魅力を語る。
↑授業の様子。芸人が講師を務めることも多い
「卒業生とは、ぜひ一緒に何かしてみたい。NSCからはたくさんスターが誕生しているので、YCCからも有名人が出てほしい。そのためには、もっと構成作家という職業について知ってもらえる機会を増やしていきたい」と意気込んだ。