大阪市内に24ある行政区のうち、最も面積が狭いのが浪速区だ。しかしながら同区には、なんばパークスや湊町リバープレイス(なんばHatch)、OCAT(大阪シティエアターミナル)といったランドマークのほか、今宮戎神社、日本橋エリア(でんでんタウン・オタロード)、天王寺動物園に隣接する新世界エリアを含むなど見どころが多く、しかもこれらのエリアは歩いて回ることができるほどコンパクトにまとまっている。
今回のインタビューでは、大阪市浪速区役所市民協働課まちづくりチームの皆さんに、同区内の特にミナミエリアで行われているイベントと、これらイベントを通じた街のにぎわいづくりについて話をうかがった。
浪速区では、区の目標として「にぎわいと活力に満ちあふれるまちの創造」を、区長の方針として「浪速区がもつ観光資源や魅力を最大限に活用し、人と物の集うにぎわいのあふれるまちづくりを推進」を掲げている。
これらの目標・方針を達成するため、同区ではさまざまなにぎわいづくりの事業・イベントを展開しており、それを担っているのが市民協働課のまちづくりチームだ。
そもそも浪速区は商業が盛んで、にぎわいを感じられる街であるが、そこで区役所の職員が何を考え、何のためにイベントを展開しているのか。いくつか具体的な事例を通して紹介してみたい。
2007年に行われた区民参加会議で7月28日が「なにわの日」と制定されたことを受け、同区では「なにわの日」事業をスタートした。7月28日を中心とする夏の間、区内各地で開催される地域団体や企業、観光施設などのさまざまなイベントを区役所がとりまとめてパンフレットを制作し区の内外に発信することで、「魅力あふれる浪速区」「いつ来ても楽しい浪速区」をアピールする。
新鮮な食材があふれる朝市、子どもたちのパフォーマンスが繰り広げられるダンス大会やコンサート、夏らしさを体感できる祭りやイベント、ナイトマーケットなど、浪速区内では多種多様なイベントが行われている。10回目の開催となった2016年には、過去2番目に多い49のイベントが参画したほか、区役所主催で街歩きも企画・実施した。
まちづくり担当課長代理の武内真一郎さんは「イベント開催は行政よりも民間のほうが得意だと思うので、行政主導ではなく、地域団体、観光施設、NPOなどと連携して実施するのがポイント。行政はそれら団体やイベントをつないで発信していくことで、集客によるにぎわいづくりや区の魅力の再発見を促す役割を担っている。『なにわの日』事業は、行政と地域との距離が近い浪速区らしいにぎわいづくりの理想的な形だと思う」と話す。
「なにわの日」と同じく、街の賑わいを作る目的で2015年から始まったのが、音楽イベント「Live Session 728(なにわ)」。「なんばHatch」「Zepp Namba」だけでなく、浪速区内にはライブハウスが10軒ほどあり、これらのライブハウスとタイアップし、今後の活躍が期待されるアーティスト5~6組に出演の場を提供するものだ。
イベント会場はOCATの「ポンテ広場」で、入場無料とあって通りすがりの人も気軽にライブを楽しむことができる。過去4回開催され、各回600人~1000人が来場した。
根来秀佳さんは「浪速区は住民7万人のうち約1割が毎年入れ替わるほど、出入りの激しい街で、若者や単身者も多い。『Live Session 728』は、若い人たちにもっと夢を持って頑張って欲しいという思いでスタートしたもので、彼らに『浪速区で自分たちが活躍できる』と感じてもらえれば、浪速区を『自分の好きな街、住みたい街』と思ってもらえるのでは」と話す。
大阪の中心に位置する浪速区は、関西国際空港とも鉄道・バスでダイレクトに結ばれており、早朝・夜間に関わらず数多くの観光客がやってくることから、「安全安心のまちづくり」「夜のにぎわいづくり」も区の課題となっている。そこで、夜間のにぎわいを作ることでこの課題を解決しつつ、経済波及効果の高い宿泊観光客の誘致につなげる取り組みの一つが「なにわリバーサイド夜市」だ。
湊町リバープレイスの屋外広場を利用し、数多くの屋台を出店したり、ステージイベントを行ったりするもので、2014年10月に初めて実施し、2日間で延べ約1万人が訪れた。
夜の水辺空間を活用したイベントは来場者からも好評を得たので、2015年、2016年も続けて開催。2017年度も開催を予定しており、秋の夜長を楽しむイベントとして定着しつつある。
地下鉄大国町駅にほど近い大阪木津卸売市場は国内最大級の民間卸売市場で、月2回開催される「木津の朝市」では一般来場者への小売り販売も行うなど、観光資源としても魅力あふれる「食」の拠点となっている。
地域の人には以前からその存在は知られていたが、さらに知名度をあげ、区の魅力の一つとして国内外に向けてPRし、同区の「食」の魅力を気軽に楽しんでもらおうと「なにわ食いだおれマーケット」を2015年10月末に初開催し、2016年にも開催した。
「マグロ解体ショー」や「セリ大会」などを実施するほか、好きな具材を各店舗で買って食べることができる「のっけ丼」など、見て、参加して、食べる楽しみが満載のイベントだ。会場内には、区役所からの呼びかけにより、区内の老舗(しにせ)や特色ある飲食店などもブースを出している。
このイベントも、木津市場の活性化を考える市場協会のメンバーと、区役所がタイアップした形で企画・実施しているもの。2回目となる2016年には、近隣の商業施設EKIKANやOCATモールも巻き込んだ形で、より魅力アップを図った。
大西晃さんは「このイベントを通じて、浪速区が有するさまざまな食の魅力の発信と、木津市場・朝市のPRの双方を狙っている」と話す。
2005年にスタートし、2016年で12回目を迎えたポップカルチャーの祭典「日本橋ストリートフェスタ」。コスプレやアニメファンなど約25万人が来場する国内最大級のイベントとして知られており、今年も3月19日(日)に13回目が開催される。
もともとは商業振興の一環としてスタートし、電気街「でんでんタウン」から情報を発信するという商店街の「商い」に特化したイベントだったが、時代の変遷、そして日本橋エリアの変貌とともにポップカルチャーの要素が増え、今ではコスプレイヤーが集まるイベントとして認知されている。
当初は大阪市が補助金を出して行っていたが、現在では日本橋の地域の人や商店街などで立ち上げた委員会が自立的に運営。浪速区役所はPRなどの側面で協力している。
武内さんは「浪速区が抱える課題をイベントという手段で解決していく」ことを意識している。例えば、新世界市場で夏に開催される「新世界宵市場」の場合、「いわゆるシャッター通りとなっている市場の活性化と、区の課題である夜のにぎわいづくりの両方を解決するために夜市の開催を思い立った。地元商店主の方々と何度も話し合いの場を持ち、ゼロから企画を立ち上げた。昭和レトロなアーケードの雰囲気を活かした夜市が好評を得て、おかげさまで約5000人の来場があった。今度はそれを日常のにぎわいに繋げていくために何ができるかを考えていきたい」と話す。
また、「イベントを形にして成功するためには、ホップ、ステップ、ジャンプの3年で定着させることが必要」だと言う。当初は区役所が主導して街の人とともにイベントを企画・実施するが、そのイベントに関わった人たちを中心に、徐々に民間の手に委ねていき、最終的には地域に根付かせていくという。
「街の人はずっとそこで商売していたり、住んでいたりしているが、我々は2~3年で担当者が変わってしまう。それが行政の弱みと言えばそうだが、それを逆に強みにしていきたい。担当者が変わることで新たな発想で浪速区の資源や魅力をとらえ、『こんなことができるんちゃうかなあ』と発見できるようになれば、組織として強い」と武内さん。
「イベントを成功させる上では、チームのメンバーそれぞれが、自分の担当する事業をプロジェクトマネジャー的に企画から広報、予算管理そして実行に至るまで責任と“思い”を持って進めること、なにより地域や企業との間で信頼関係を築き、多くの人を巻き込みながら進めていく資質が必要」という。武内さん自身も、3年前に着任した当初は、街の人との距離感や浪速区の魅力をどう活かしていくか、迷いや戸惑いがあったと言う。
今では、チームのメンバーそれぞれが自分らしいやり方を身に付け、『まちのにぎわいづくりを、地域・企業との連携により実現する』という目標を共有し、活き活きと仕事を進めている様子がインタビューの中でも伺える。行政としてのスタンスや役割に試行錯誤しながらも、次々と街の魅力を活かしたイベントを展開することは、都心の区ならではのミッションなのかもしれない。
「浪速区の魅力を再発見してイベント化し、外に打ち出していくという取り組みはできてきているが、それぞれが個別バラバラになっている状態だ。今後はそれらを束ねる『シティプロモーション』『地域ブランド化』といった浪速区全体のイメージアップやにぎわいづくりに繋がる取り組みも手掛けていきたい」と、武内さんをはじめチームのメンバーは意気込んでいる。