小説家・東龍造さんの新刊「おたやんのつぶやき 法善寺と富山、奇なる縒(よ)り糸」が6月14日、刊行される。出版は幻戯書房(東京都千代田区)。
映画や大阪、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動を続けるエッセイスト・武部好伸さんの小説第2作で、小説は「東龍造」の名で執筆する。中編2作と短編1作で構成し、表題作「おたやんのつぶやき~」から始まり、「チンチン電車の風音」「ロック・フォートの夕照(せきしょう)」と続く。
「おたやんのつぶやき~」は、武部さんが著した「ぜんぶ大阪の映画やねん」(2000年、平凡社)がきっかけ。法善寺(大阪市中央区難波1)のぜんざい店「めをとぜんざい」に飾られていたおたふく人形を取り上げたところ、周囲から面白いとほめられたという。大阪ではおたふく人形を愛着を込めて「おたやん」と呼ぶ。
「いつか作品にできればと思っていた」と武部さん。エッセイストとして活動を続けながら6年前から執筆に乗り出し、元新聞記者らしく丁寧な取材を重ねて完成させた。
同作のストーリーは、印刷会社を退職した主人公・田上雄二が、富山にいる友人と会った帰りに立ち寄った百河豚(いっぷく)美術館(富山県)で、展示されていたおたやんに出合うところから始まる。田上が見入っていると突然おたやんがしゃべり出し、その正体が「めをとぜんざい」で飾られていた初代おたやんだと知る。その上、田上の祖母のことをよく知るというおたやんは、「~やさかい」「~でっしゃろ」「だんない、だんない(大丈夫、の意)」などコテコテの関西弁でひたすらしゃべる。おたやんの独白を通して、おたやんと祖母との関係、なぜおたやんが富山に展示されているのかなどが明らかになっていく。
取材中にもあらゆる資料を見せて、熱量高くさまざまな説明をしてくれた武部さん。「何度も富山に行ったほか、いろいろなところから資料をかき集めて完成させた。こんな歴史があるんだということを感じ取ってもらえたらうれしい」と話す。