「アート写真をもっと身近にすること」をコンセプトに活動するアート写真レーベル「photta-lot(フォッタロット)」の主宰・柿島貴志さんを迎えたトークイベントが10月30日、南船場のギャラリー「ナダール」(大阪市中央区南船場3、TEL 06-6251-8108)で行われた。
アート写真のコーディネーター兼プロデューサーとして活躍する柿島さんは、イギリスの美術大学を卒業後、フォトエージェンシーやインテリアアート企業で写真の販売に携わった経験を持つ。2007年に設立したフォッタロットは、尾黒久美さんや鈴木全太さんなど4人の若手写真家の作品を展示・販売するほか、作品の額装や写真展のプロデュースなどを手がけている。
「写真が売れる時代へ」と題した同イベントは、「写真の流通を妨げている障害物を一つひとつ取り除くこと」を使命に取り組んできた活動が少しずつ実を結び始めたことから、「写真ビジネスに関わる方へヒントになる話ができれば」と企画したもの。
前半は、「写真が売れない」とされてきた日本のアート市場を分析。「日本の写真集は力がある」と海外でも高く評価される一方で、「作品を飾れない住宅環境、『写真は見るもの』という文化、技術中心の教育など、日本のアート写真をとりまく現状が成長を防いできた」と柿島さん。その結果、市場は「一部のコレクターが著名な写真家の作品を購入する特殊なマーケット」と、安価なポストカード写真などを購入する「大衆マーケット」のみが存在し、一般の人が購入できる「ミドルマーケット」が欠けていると説明。
最近では、写真が現代美術の一部として認められるようになり、インテリアと写真をコラボさせたイベントが開催されるなど、写真業界も少しずつ盛り上がりを見せているという。柿島さんはそうした変化を歓迎しながらも、「気に入った作品を身近に置くという楽しみを、『作品を買うのが生きがい』というコレクターだけではなく、一般の人が普段の生活の中に取り入れることができるようにするには、まだまだ環境を整える必要がある」と語る。
後半は、フォッタロットの活動を中心に、ミドルマーケットを生み出すための取り組みを提案。例えば、海外の展示用に作成された四方1メートルの写真を半分の大きさに印刷して展示・販売したり、購入後にすぐ飾れるよう写真を額装してから販売したり、日本の環境に合わせた販売方法を取り入れている同レーベル。「初めて購入する人には、額縁をかける釘の打ち方を説明するのも責任の一つ。一般の人が安心して購入できるよう、販売する側が工夫をしなければ、アート写真は売れない」と断言する柿島さん。最近の写真展では6万円前後の作品が10枚近く売れ、購入者に20代から30代の一般女性が増えるなど、状況に変化が見え始めたという。
「一点ものではないところがアート写真の強み。その強みを生かしてどう社会と関わっていくかが写真ビジネスに関わるみんなの共通の課題だと思う。いろいろな家に写真が飾られているという目標に向けて、これからもフォッタロットとして果たせる役割を存分に発揮していきたい」と意欲を語った。
同ギャラリーでは、フォッタロット所属の写真家・尾黒久美さんの作品展「NOISE」を開催中。開催時間は11時~19時。入場無料。今月7日まで。