広域なんば圏の西方を南北に貫く四つ橋筋。この道路の下を走る地下鉄四つ橋線の「四ツ橋駅」と「なんば駅」を結ぶラインの東側が「アメリカ村」、西側が「堀江」エリアだ。北側を長堀通り、南側を道頓堀川、西側を木津川に囲まれた東西に長い堀江エリアの北半分が「北堀江」、南半分が「南堀江」となっている。
堀江エリアへのアプローチは、北東の「四ツ橋駅」や南東の「なんば駅」からが考えられるが、実際には東側に隣接するアメリカ村から徒歩で移動してきている層が多数存在しており、面的に広がる広域なんば圏を象徴している。セレクトショップや雑貨店など店舗の多くは堀江エリアの東半分に集積しており、中でも四つ橋筋沿いや南堀江に多くが位置している。
堀江エリアの特長でもある比較的静かな住環境は、西へ行くほどに明確になっていく。新なにわ筋付近まで来るとセレクトショップなどの店舗は減るが、ケーキ店やクリニック、図書館など生活に根付いた施設が充実している。
南堀江を東西に貫くメーンストリート「立花通り」は別名「オレンジストリート」として親しまれている。「家具の街」として栄えたこの通りには現在も多数の家具店が立ち並んでいるが、その合間にセレクトショップや雑貨店、カフェなどのおしゃれな店が軒を連ねている。
南堀江には有名ブランド店も多く集まっている。高級ブランド店が立ち並ぶ心斎橋とは違い、比較的カジュアルなブランドが出店しているのが特徴だ。バリ風レストラン「バリラックス」や「オリエンタルアクア NADESHIKO」など、予算や時間に余裕のある層をターゲットにした、2次会利用もできるレストランが出店しているのも南堀江らしい。
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アメリカ村の三角公園から西に進み、四つ橋筋を渡って2ブロック南側に歩くと、そこがオレンジストリートの入口だ。なにわ筋を超えて西側にもつながり、あみだ池筋までがオレンジストリートだが、高感度なショップが立ち並ぶのは、なにわ筋までの範囲となる。なにわ筋よりも西側には、昔ながらの家具店も多く、人通りは少なくなる。
オレンジストリートの北側にある堀江公園は、北堀江との境にある緑の多い公園だ。オレンジストリートからは2ブロック離れているが、「ポール・スミス ジーンズ」や「ザ・ノース・フェイス」などの有名ブランドも堀江公園の至近に位置するなど、オレンジストリートとともに南堀江らしいエリア。公園の西側に1998年にできたカフェ「muse osaka」は、堀江の先駆者的なカフェとして、今でもランドマークになっている。
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有名ブランド店が集まる南堀江に比べると、北堀江には少し静かな雰囲気がただよう。北堀江には南堀江の「オレンジストリート」のような店舗集積が進むストリートは見受けられず、エリア全体を通しての店舗数も多くはないが、南堀江がエリアとしてブランド化してきた現在、「静かで落ち着く北堀江をあえて選ぶ」という店舗オーナーの声もある。
北堀江にはギャラリーやアートハウス、個人が経営する小規模のセレクトショップや子ども服店など、落ち着いた雰囲気に溶け込んだ街が存在する。休日でもあまり人が多くなく、大人なエリアだ。南船場のカフェブームの仕掛け人として知られるバルニバービが次に目を付けたのも、北堀江エリアだ。
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堀江が「新しい街」「おしゃれな街」として雑誌に取り上げられ始めたのは2000年に入ってからだった。「HanakoWEST」が「家具通りが新店ラッシュの高感度ストリートに大変身!」とオレンジストリートを紹介したのは2000年11月号。「Meets Regional」や「SAVVY」でも2000年を境に堀江についての記事が急増した。
雑誌では堀江を「新しい街」「おしゃれな街」「人が住む街ならではの空気感が魅力」などと紹介。実際、堀江の西側にはマンションや学校も多く、そこに住む人が適度に存在している雰囲気がある。東京の代官山と雰囲気が似ているといわれるのもそこにゆえんがあるのかもしれない。
アメリカ村の客層が低年齢化し、一時、治安の悪化が顕著になったこともあり、購買力のある20代、30代が落ち着いた環境を求めて周辺に逃げ場を求めた結果、南船場とともに堀江が「次のエリア」として浮上してきたという側面もある。
堀江の店に取材を重ねることで、堀江の良さ、輪郭のようなものが見えてきた。「大阪っぽくないところが良い」「おしゃれな中に、人々の生活感があふれている」「難波などに比べると住民が多い」「仕事というよりも、好きなことをする街」といった言葉を、堀江を選んだ店舗オーナーなどから聞く。堀江公園の周辺などでは子どもや犬の散歩をしている人も多く、広域なんば圏のなかでも堀江は生活圏に密着した数少ないエリアといえる。
しかし近年、南堀江のオレンジストリートを中心に、東京資本の流入などによる「ショップの乱立」が懸念され始めている。ブレイクから10年近くになりメジャーなショッピングエリアとなった南堀江には、週末ともなると20代、30代の購買力のある買い物客が集まり、店側としても「おいしいエリア」となっている。
このまま店舗集積が進むことで、南堀江が「アメリカ村化」してしまうことも考えられる。アメリカ村は若年層には絶大な人気を誇っているが、彼らをターゲットにした店舗があまりにも集まりすぎ商業主義が徹底された結果、本当に購買力のある層が周辺のエリアに逃げ出したともいわれている。南堀江も同様の結末をたどるのではないかという懸念が一部で出始めているのも事実だ。
湊町リバープレイスの北側、道頓堀川を挟んで建設中の商業施設「キャナルテラス堀江」が7月に開業する。さらに、キャナルテラス堀江の北側エリアには31階建ての高層ビルが2012年に竣工する。
このエリアは住友倉庫が開発を進めているもので、かつては大阪府会議事堂があった土地を1902年に取得していたもの。すでにこのエリアの東側には「なんばスミソウビル」が、西側には「なんばSSビル」「南堀江マンション」が完成している。
キャナルテラス堀江は、「東棟」と「西棟」の2棟からなるもので、東棟(967平方メートル)には「レストラン・バー」「エスニックダイニング」「炭火ダイニング」の3店が、西棟(692平方メートル)には「日本料理」「イタリアンダイニング」の2店がオープンを予定している。東棟は今年7月に、西棟は10月に開業する。
現在は駐車場となっている北側のエリア(5,807平方メートル)には、31階建ての複合ビルが建設される。1階~7階が商業施設(店舗面積21,000平方メートル)、8階~22階がホテル(300室程度)、23階~31階が賃貸マンション(150戸程度)となる予定で、地上31階・地下3階建て、延床面積は66,000平方メートル。2012年の竣工を目指して、2009年春までに着工される予定だ。
キャナルテラス堀江の南側には、道頓堀川に面して遊歩道が建設中で、対岸の湊町リバープレイスとの間には道頓堀川人道橋も建設中だ。これにより「FM大阪」やライブハウス「なんばHatch」などが入居する湊町リバープレイスと、南堀江との間に新たな動線が確保されるとともに、川沿いの景観が大きく変わることが期待されている。
道頓堀川遊歩道(とんぼりリバーウォーク)は4月1日、太左衛門橋~相合橋間が完成し、すでに供用している戎橋~太左衛門橋間と合わせて、戎橋~相合橋間の約260メートルが遊歩道でつながっている。大阪市の計画によると、2010年度には湊町~日本橋間の約1キロメートルが遊歩道で結ばれる予定。完成すると、人通りの多い戎橋周辺から湊町リバープレイスやキャナルテラス堀江への新たな動線が確保され、アメリカ村を経由しない、堀江への人の流れができる可能性がある。
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住友倉庫が開発を計画している31階建て複合ビルの北東側、オレンジストリートの入口に面したエリアにも、高層ビルの建築が計画されている。昨年5月末に不動産ファンドが1,583平方メートルの土地を取得、現在は駐車場となっているが、2010年2月末には23階建ての複合ビルが建設される模様だ。店舗、事務所、住居の複合ビルで、女性をターゲットにした飲食店、美容関連のテナントの誘致が予定されている。
北堀江1丁目でも、高層ビルが建築されている。四つ橋筋に面した東側の1,041平方メートルの土地に2009年2月に竣工予定の22階建て高層ビルには、店舗、事務所、賃貸マンションが整備される。
また、湊町リバープレイスの南側の10,547平方メートルの広大に敷地には現在、31階建ての「マルイト難波ビル」が建設中だ。店舗、事務所、ホテルが整備される予定で、2009年6月に竣工を予定。なんば駅地下街に直結した新たなランドマークが誕生する。
2009年の春に開業する「阪神なんば線」。これまで梅田駅で乗り換えが必要だった神戸~難波間のアクセスが大幅に改善、三宮から難波へのダイレクトなアクセスが実現するとあって、徐々に注目され始めている。
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堀江エリアでは、特に南堀江の四つ橋筋沿いには大きな開発計画が目白押しだ。「水都・大阪」の復権を掲げる大阪市の方針もあって道頓堀川の遊歩道も整備されていく。阪神なんば線が神戸方面からの集客にも成功すれば、難波駅から湊町を通って南堀江へと人が流れる可能性もある。この場合、住友倉庫の狙い通り、堀江の玄関口は南東側「キャナルテラス堀江」付近になる可能性が高い。
商業施設の開発が進む中で、堀江の良さが薄まっていく懸念もある。開発により堀江全体が底上げされ、南堀江はさらにブランド店が集積し、まだ手つかずの場所が残る北堀江が注目されるようになるのか、あるいは商業主義を嫌う層の「脱・堀江」が明確になるのか、堀江がメジャーになって10年目の2009年が、そのターニングポイントになる可能性が高い。