-看板商品の「カーペンターブロック」は、わたしたちがイメージする「子ども用のおもちゃ」としてのブロックとはかなり異なりますね。どのような経緯で開発されたブロックなのでしょうか?
このカーペンターブロックは、親せきが大昔に開発したおもちゃのブロックだったんです。親が印刷会社を営んでいて、「カーペンターブロック事業部」が子ども用の知育玩具として販売していましたが、当時は商品のブランド力もなく、(流通経路が決まっていて新規参入しづらい)おもちゃ業界で売ることには限界がありました。
もともと「やり方次第でうまくいくのでは」という思いがあったので、「もうやめてしまおう」という話になった時、事業ごと引き受けて新たに会社を立ち上げることを決めました。
-そのブロックが、どのようにして現在の形に変わっていったのでしょう?
7年ほど前のある日、デザイン学校の学生から「パッケージデザインを卒業制作の課題にさせてもらえませんか」というメールが来まして、「いいですよ」と返事をしてから数カ月後に持ってきてくれたものがとても洗練されたデザインで、それが今のデザインの原型になっています。見た瞬間「これはいける」と確信し、彼と2人3脚で事業を進めていくことにしたんです。
同じ「ギフトショー」に出展しても、以前はおもちゃ業界の方が見に来られていたのが、デザインを変えたことで、インテリアショップのバイヤーさんが見に来られたり、「海外の製品ですか?」と尋ねられるようになったりと、デザインの威力を感じました。
-パッケージのリニューアルを機に会社が動き出した?
販売ルートをこれまでのおもちゃ業界ではなく、インテリアショップやセレクトショップ、美術館のショップに思い切って切り替えました。さらに、少ないピースで簡単に作ることができる動物やペン立てなどの小型キットから、ランプシェードや棚などの家具を組み立てることができるセットまで、商品のラインアップを幅広く展開し、また、カーペンターブロックの基本の組み方から応用までを解説した「model book」を通して新しいブロックの形を打ち出していきました。
-2006年にはカーペンターブロックがパリ・ルーブル装飾美術館「TOY部門」の永久コレクションとして収蔵されることになりました。その時のお話を聞かせていただけますか?
(取り扱い店舗の)京都・藤井大丸にあるインテリアショップで展示会を開催していて、その時たまたま通りかかったフランス人の方がルーブル装飾美術館で学芸員をしている方のお友達だったそうで、その後、その展示会の写真やホームページを見た学芸員の方から「美術館のコレクションとして購入したい」とメールをいただきました。
収蔵されると決まった商談の席で、美術館のショップにもカーペンターブロックを置いてもらえることが決まりました。同じ時期にニューヨーク近代美術館(MoMA)のショップでも販売されることが決まりました。ちょうどブランドイメージを大切にして販売先を絞っていたために、売り上げが伴わず苦しい時期だったので、やってきたことに確信を持てた瞬間でしたね。
-2007年には、なんばパークスに初の直営店をオープンしましたね。
アップルストア銀座店を見に行ったことがあるのですが、スティーブ・ジョブズさんの言いたかったことが分かった気がしました。「世界観を形にする」というのはこういうことかと。自分たちですべてをコントロールして、「こういう世界なんです」というのを見せる場所。その世界観を買っていただく、という意味で直営店を持つというのはすごく大切だなと思いました。
そのころ、たまたま知り合いから靭公園近くのビルを紹介してもらって、ショールームを出せることになり、初めて大きな空間デザインをするようになりました。それを見に来てもらった南海都市創造の方に「ぜひ出店を」ということでお話をいただいて2007年になんばパークスで初の直営店をオープンすることになりました。直営店ができてようやく、自分たちの世界観を表現できるようになり、そこからまた会社が新しい方向に動き出しました。
-2005年にアップルストア心斎橋店でコラボイベントを開催されたり、2007年と2008年になんばパークスの直営店で「SOZ BAR」という期間限定のコラボバーを開催されたほか、東京でも2008年に日本オペレッタ協会の舞台を演出したりと、かなりユニークなコラボレーションを行っていらっしゃいますね。
コラボレーションについては、「大阪から世界に向けて発信する」という姿勢が面白いということで一緒にやろうと声をかけていただきました。SOZとしても、そういうところで共感し合っていないと、ただ面白いだけとか売り上げが伸びるからという理由では一緒にやりません。
SOZ BARに関しては、カフェでもよかったのですが、とにかくブロックに対する「子ども」というイメージを払しょくしたかったので、お酒を扱う「大人の」バーを演出することによって徹底的にブロックを別の次元に持っていってしまおうという思いで開催しました。
-なんば経済新聞でも2008年にSOZ BARを取り上げさせていただきましたが、組み合わさったブロックのすき間からもれた光が幻想的で、まさに「大人な」雰囲気の空間でした。
照明は、大阪で店舗照明を手がけるメーカー「MAXRAY(マックスレイ)」さんが、「大阪発」というSOZの姿勢に賛同して設立当初からスポンサーとして協力してくださっています。ほかにも、2008年には大阪・アートカレイドスコープでSOZ CAFEを、ルーブルの装飾美術館でも期間限定のSOZ BARを開催しました。
昨年は「NAMBA CITY」の第1期リニューアルに伴い、大阪から新しいカフェスタイルを発信する「shakers(シェイカーズ)」とのコラボレーションカフェ「SHAKERS Cafe lounge + SOZ」をオープンしました。ここは変形自在なカーペンターブロックを利用して、季節ごとにテーマを変えて空間を演出する、世界で初めての「変化する」カフェです。
このカフェで、自分の想像していた以上にいいものができたので、いつかは飲食事業も手がけたいなと思っています。飲食空間の中でSOZの世界観を味わっていただいて、ついでにブロックを買う、ぐらいの状態に持っていきたいと思っています。とにかく世界観を伝えて、ブロックの持つ無限の可能性を分かってもらいたいという思いがあります。このブロックだけを見ている人は、例えばバーカウンターができるなんて想像できないと思うし、「こんなこともできるの?」という驚きを届けていきたいという気持ちでやっています。
-そういう意味では、今年発表された「SOZ HOME」もまさに斬新な内容ですね。
これは、店舗やオフィスの設計・デザイン・施工を手がける「es(エス)」さんと一緒にやろうと始めたものです。必要な機能だけを備えた白い箱の家に、無限の可能性を持ったカーペンターブロックを組み立てて演出してもらおうと。暮らしの変化に合わせて家具や区切りを変えられるのが特徴ですね。ブロックの可能性を追求した一つの形です。
-自分たちからメッセージを発信していこうという姿勢で取り組まれているのですね。
親の印刷会社で営業を担当していたこともあったのですが、顧客の要望を聞いて会社との間に立って調整をするというのは、どうしても相手ありきで受け身な姿勢になってしまいます。僕はそれより自分がこうだと思ったことを発信する側に回りたい、「発信型」企業を作りたいと思ったのです。情報の発信側にまわって、自分がリスクを負ってやるというのはずっとやりたかったので…。自分たちの信じた姿勢を貫くという姿勢が一番大事かなと思っています。
大阪発アートブロックの「SOZ STORE」、期間限定のコラボバー(なんば経済新聞)
-なんばパークスのお店が唯一の直営店ということですが、他の場所で直営店を出されるご予定は?
直営店やカフェなどの大きな固定の店舗については、大阪とヨーロッパにしか出しませんと言いきってしまっています。東京には出さないと。SOZでは世界中から優秀な人材を集めて、世界に向けて面白いもの発信していきたいと思っていますが、あくまでも発信するのは大阪から…。例えばアップルストアの本店に足を運ぶファンがいるように、わざわざ大阪の本店に足を運んでもらえるようにすることにこそ意味があると思うのです。
-大阪発にこだわるのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
今の傾向として、大阪の企業が「東京に行かないと商売にならない。大阪には仕事がない」ということですぐ東京に行く方が多いじゃないですか。それを見ていて僕は抵抗がありました。仕方がないなというので容認せざるを得ないだけで、内心快くは思っていない。大阪の人は多分みんなそういう気持ちがあると思いますよ。以前であれば、大阪で商売をやるという会社が多かったと思いますが、ここ最近ガタッと崩れて一斉に東京に集中してしまっている。それに抵抗があったということがまずあります。
-大阪からでも発信できる?
そうです、みんながやっていることを「はい、そうですか」とそのままするのは何か面白くないので。僕は大阪生まれ大阪育ちですが、1990年代後半に東京に2年ほど住んでいたことがあります。その時、大阪に帰ってくると街に活気がないと感じた。東京では渋谷や原宿など元気な街の姿があって、本来なら大阪だってもっと力があるはずなのにと寂しい思いがしていました。でも自分ではどうすることもできなく残念だと…。
2004年に会社を立ち上げるとなったときに、自分の会社なので好きなようにしようと思いました。面白いことに、「直営店は大阪か世界の都市、特にヨーロッパのみ」ということを言いきりだしてから、周りから評価されるようになってきました。今は大阪発でこだわってやって事業を成功させて、「こんなやり方でも大成功できますよ。むしろその方がうまくいきましたよ」というのを見せたいなと思っています。
-製品に「MADE IN OSAKA, JAPAN」と明記されているのもそうした思いからでしょうか。
カーペンターブロックが完成したとき、スタッフと相談して「MADE IN OSAKA, JAPAN」と入れることを決めました。せっかく大阪で作っていますしね。実際その1ワードを入れたことによって、僕自身大阪を背負っているような気がして、「大阪発」というのをかなり意識するようになりました。
ルーブル装飾美術館のコレクションとして認定されたとき、こうして評価してくれるところがあるのなら、ひょっとしたらSOZは大阪の間違ったイメージを変えていくことができる事業になるのでは、という思いになりました。どうせならそっちの方に力を入れたいと思っています。
ルーブルで期間限定のバー「SOZ BAR」を出したときも、バーカウンターに「MADE IN OSAKA, JAPAN」と入れましたし。その前の年に同美術館のショーウインドーを飾り付けた時にも、カッティングシートで「MADE IN OSAKA, JAPAN」と明記しました。「うわー、かっこいい」っていう反応の中に大阪っていう文字を入れて焼き付けたいなと。「大阪=すごい」にしてしまいたい、無理やりしてしまおうとたくらんでいます(笑)。
-確かに「かっこいい」というのは、これまでの大阪にはなかったイメージかもしれません。
大阪出身のデザイナーさんもいらっしゃいますし、有名ブランドもありますけど、あんまり大阪って出さないじゃないですか。むしろ大阪って出すのが恥ずかしいみたいな傾向がありますよね。じゃあそれを力技でひっくり返してやりたいなと。自分が(ルーブル装飾美術館など)有名なところでイベントをしたときに「大阪」っていう文字を出せば、新しい大阪のイメージを打ち出せるじゃないですか。大阪に対して持たれている変なイメージを「大阪ってかっこええやん」というイメージに変えていきたいですね。
-SOZのこれからについて聞かせてください。
僕の中にあるキーワード「別次元の事業にいかにするか」ということを常に考えています。もっと高い次元にどうやって持っていけるかなということです。僕にとってカーペンターブロックはブロックではないのです。
社名のSOZとは 創造力という意味で、「1+1=∞(無限大)」というコンセプトを掲げているのですが、カーペンターブロックはそれを表現し広めるためにふさわしい一つの製品であって、SOZが「ブロックを販売する会社」というつもりは全然ありません。そのコンセプトを体現するのにふさわしいものを常に追い求めていきたいと思っています。
-別次元というと?
例えばこのカーペンターブロック一つとっても、おもちゃとか既存の枠ではなく、ブロックが持っている可能性をもっともっと引き出すことをしたいと思っています。SOZブランドとしては、将来的にブロック以外のユニークな製品・サービスも考えていきたいと思います。「あ、そう来たか」「さすがSOZやな」って思ってもらえるようなことをしていきたいと考えています。
どうすれば次に飛躍できるかを考えながら、SOZとしてできることを追求し続けていきたいと思っているので、その変化・進化をお客さんにも一緒に楽しんでもらえたらいいなと思います。「創造」とは答えは一つじゃないということだと思っているので、SOZの活動を通して1+1=2じゃない答えもあるというのを伝えていきたいですね。