特集

広域なんば圏のインターネット活用最前線(後編)
百貨店・飲食店・旅館におけるネット活用事例

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■ネット販売を本格化、「gokai」開業を機にモバイルサイトも-高島屋

 高島屋大阪店(大阪市中央区難波5)は3月2日、増床部分を第1期オープンした。高島屋で初の試みとなるヤング向け服飾フロア「gokai(ゴカイ)」や、上層階の飲食フロア「なんばダイニングメゾン」が話題になるなか、インターネットへの取り組みも強化した。

高島屋大阪店

 高島屋では3月31日、これまで「ギフト」「衣料品や雑貨」「通信販売」と商品分野別に3つに分かれていたネットショップを1つに統合し、「高島屋オンラインストア」としてリニューアルオープンした。これまでは別々にショッピングカートが存在し、それぞれで決済をしなければならなかったが、統合により1つのショッピングカートで購入手続きができるようになった。

 「インターネットが生活に入り込んでいる現在、オンラインショップはまだまだ伸びる」と話すのは、宣伝部大阪店販売促進室の清原啓文さん。これまで中元・歳暮のギフト販売が多かったが、これからはファッションも本格的に伸びてくると考えている。同社では2008年秋、ネットショップとカタログ通販で別々だった事業部を「クロスメディア事業部」として統合、ネットショップを「21店舗目の百貨店」と位置付け強化している。

高島屋オンラインストア

 大阪店の5階にオープンしたヤング向けフロア「gokai」のプロモーションでも、インターネットを積極的に活用する。「gokai」のイメージキャラクターとして活用する「10人のマネキン」がブログを書くという設定で、10個のブログを運用するほか、売り場の販売員もブログを書いており、「ささいなことでも積極的に情報発信するようにしている」(清原さん)という。同店では「gokai」のサイトを高島屋のサイトと分離し別ドメインで立ち上げるなど、戦略的に差別化を行っている。

gokai

 「gokai」のオープンに合わせ3月2日、全店一斉にモバイルサイトも立ち上げた。モバイルサイトでは最新の技術を使いFlashを多用し、画面を見やすくするとともに遷移を少なくし閲覧にかかる時間を短縮するなど工夫した。

 そのほか、3月17日からはメールマガジン「TAKASHIMAYA STORE NEWS」の会員募集を開始、23日に1号目を配信した。今後、週1回を目安に配信していく予定という。メールマガジンでは情報を「イベント」「コスメ」「婦人服」「ポイントカード優待会」など11カテゴリーに分け、読者の属性や希望する内容に応じて配信文面を変えることができる。

TAKASHIMAYA STORE NEWS

 同社では、本部の宣伝部のほか、全国の大型店6店舗に、子ども服などが人気で客層の若い玉川店を加えた7店舗に専属のサイト担当者を配置した。本部がシステム開発やテンプレートの開発を行い、各店舗が日々のオペレーションを担当する。担当者は2週間に1回のテレビ会議で課題を共有し改善に結び付けている。大阪店では2人がサイト担当し、「うち1人が戦略を担当し、もう1人が情報のとりまとめやメールマガジンの配信などのオペレーションを行っている」と清原さん。

 清原さんは次のステップとして「CRMを絡めていきたい」と話す。現在はメールマガジンの配信のためにメールアドレスのみ取得しているが、高島屋カード会員情報などとひも付けることで、より精度の高い情報発信をしていきたいという。また新聞やチラシなどとサイトの「クロスメディア連携」も進めていきたいと話す。

■ツイッターとブログで「楽しい雰囲気」を伝える-かぼちゃの馬車

 法善寺横丁の居酒屋「かぼちゃの馬車」(大阪市中央区道頓堀1)の店長・黒野敬誠さんは、パソコンとiPhoneをフル活用し日々、ブログやツイッターを更新している。

かぼちゃの馬車(ぐるなび)

 黒野さんが2009年2月にぐるなび内でブログ始めたのは、ぐるなびが加盟社向けに行っている販売促進セミナー「ぐるなび大学」で、ブログを活用している同業者の講演を聞いたことがきっかけだった。奈良にあるイタリア料理店がブログを活用し、ぐるなび内で日本一のアクセス数を得ているということを聞き、自身もブログを始めようと考えたという。

 ブログでは、来店客の宴会の様子や黒野さんの休日の出来事、近隣の情報などを発信している黒野さんは「1日でもさぼると続かなくなるので、毎日欠かさず書くようにしている」と話す。黒野さんの人柄もあり、来店客と親しくなることも多く、宴会の様子を撮影してブログに掲載させてもらうことも多い。そうした場合にはブログの存在をアピールし、後で見てもらうようにしているという。

かぼちゃの馬車ブログ(ぐるなび)

 ただぐるなび内のブログはシステム上、読者がコメントを書くのに会員登録が必要になっているため、食べ歩きが好きなヘビーユーザーや同業者などからのコメントが多く、一般客はコメントを気軽に書きこみにくいため、ぐるなびの担当者から教えてもらったツイッターを始めた。

 ツイッターでは、店のPRだけでなく、日々のふとしたつぶやきやフォロワーとの会話も積極的に行っている。「以前に比べて、食事をするために道頓堀に来るという人が減った」という黒野さんは、少しでも道頓堀を元気な街にしようと、ツイッターやブログを通して、店や周辺地域の楽しげな雰囲気を積極的に発信する。

黒野さんのツイッター

 ツイッターのフォロワーは、4月15日時点で1,550人。自らも1,900人余りをフォローしている。フォロワーを増やすコツは「フォロワーを探している人を探すこと」と黒野さん。地域を問わずファンを作るために、近隣の人にこだわらずフォローしているという。「風呂に入るときにジップロックにiPhoneを入れてツイッターをするのが楽しみ」と笑う黒野さんは、タイムラインをリスト分けして、自宅と職場、また外出先でもコミュニケーションを欠かさない。

 ツイッターがきっかけで大きな売り上げに結びつくことはまだないが、「ツイッターのドラマも始まるし、これからは売り上げに結び付いていくと考えている」という。実際に3月末にはツイッターで知り合った20人弱のグループが飲み会を行うことになり、ツイッターで知り合った黒野さんの店で宴会が行われたという。

■都心の旅館としてネットをフル活用、情報の社内共有も-大和屋本店

 道頓堀川に面した場所にある老舗旅館「大和屋本店」(大阪市中央区島之内2)は今年1月、サイトを大幅にリニューアルした。従来からある旅館のサイトをより充実させ、検索エンジン対策(SEO)を意識した作りにするとともに、新たに飲食に特化した「料亭」としてのサイトを立ち上げた。女将(おかみ)の石橋利栄さんもブログやツイッターを活用して旅館のPRを行うなど、インターネットを使ったさまざまな取り組みを行っている。

大和屋本店

 リニューアルにより「宿泊サイト」と「料亭サイト」の2サイトを構築したことについて、石橋さんは「以前は地方からの団体客が多かったが、徐々に減ってきた。都心にある旅館のため、周辺の飲食店に食べに出る人も多く、館内で食事をされない客も増えてきた。このため料亭として地元客も取り込んでいこうと考えた」と、その理由を話す。

大和屋本店・料亭ホームページ

 「料亭サイト」では各料理のメニューを、写真を多用して掲載するほか、「完全個室の料亭」を訴求することで一般の飲食店との差別化を行っている。実際に「料亭サイト」ができたことで、食事だけの利用客が増えた。4月からはランチ営業も始め、「夜よりも軽めのボリュームで、リーズナブル」と主婦などからの反応も良いという。

 リニューアル以前から検索エンジン対策(SEO)を意識しており、「大阪市 旅館」で検索エンジンのトップに表示されていたことから、リニューアルにあたり「大阪市 ホテル」でも上位表示を目指し、実際にこのキーワードで上位表示ができるようになった。またリニューアル前後では直帰率(=1ページだけ見て去ってしまう割合)も下がったという。

 直帰率を下げるために、大阪らしいデザインにするとともに、「失礼にならない程度に」(石橋さん)関西弁を使ったほか、写真やキャッチコピーも吟味した。そのほか大阪の代表的な観光スポットへのアクセス情報なども掲載し、サイトの魅力を高めたという。

 「企業経営者はミーハーでなければならない」という石橋さんは、数年前からブログ「なにわの女将日記」を通じて情報発信を行うほか、昨年11月からはツイッターも始めた。1日100アクセス弱あるというブログでは、旅館の宿泊プランや食事プランなどのPRのほか、大阪の観光情報なども盛り込んでいる。「本音で書くこと。大阪らしく面白く書くこと。読んでみてつまらないことは書かないこと」と石橋さん。

なにわの女将日記

 スタッフ間での情報共有にもインターネットを活用している。フロント11人、調理場7人の全社員が共通して読むことができるメーリングリストを開設し、毎日何らかのコメントをするようにしている。「フロントと調理場は仕事の内容が違うが、メーリングリストによってお互いの仕事内容がわかり、苦労もわかるようになった」と石橋さん。4月13日からはネットショップもスタートした。

大和屋本店・うまいもん便

今回の特集では、大阪・ミナミの電鉄、ホテル、商店街、百貨店、飲食店、旅館のネット活用事例を紹介した。業態は違うが、いずれも企業でもインターネットを経営のツールとして活用していこうという取り組みを行っている。従来からの情報発信のツールとしてサイト、ブログを活用するほか、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアを活用し積極的に顧客とコミュニケーションを取っていこうという姿勢も鮮明になっている。今後も広域なんば圏のネット活用については注目していきたい。
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