特集

大阪ミナミの映画事情
広域なんば圏の映画人3人に聞いた「映画の未来」

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■シネコンから見た映画の現状と、映画館の新たなる取り組み

TOHOシネマズなんば支配人 横田浩嘉さん

TOHOシネマズ なんば支配人 横田浩嘉さん

 TOHOシネマズが運営するシネマコンプレックスが2006年9月に難波にオープンした。場所はなんばマルイ(大阪市中央区難波3)の8~11階。もともと南街会館があった場所でもある。シネコンとして難波エリアに初めてオープンした「TOHOシネマズ なんば」(TEL 06-6633-1040)は、現在の映画業界をどう捉えているのか。同劇場支配人の横田浩嘉さんに話を聞いた。

-3D映画「アバター」の大ヒットが記憶に新しいですが、それを含めた最近の3D映画やそれ以外の映画の劇場での反響はどうですか?

 昨年アメリカで3D映画がヒットし、「3D元年」と称して大々的に宣伝を行いました。でも残念ながら定着せず、「アバター」でようやく3D映画が知られるようになってきたという印象です。

 ヒットの要因はさまざまでしょうが、今までの「飛び出してくるような」3D映画と違い、「アバター」では「その世界の中に観客が存在する」イメージを喚起させる作品になっています。それが、大人の鑑賞にも耐えうると判断されたのではないかと考えています。最近の映画は公開第2週以降に集客が伸び悩むことが多いのですが、「アバター」はむしろ後になっていくほど人気が増していったように思いますね。

 映画業界にも不況の影響はもちろんあります。たしかに旅行をやめて映画館に行こうという人は増えるでしょうが、映画館すらやめて自宅でDVD鑑賞、という人も多いですから…。昨年の秋は実際客足が少なかったりしました。しかし作品次第では関係ないということを「アバター」のヒットは証明したように思います。

 そしてもう一つ、「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」のヒットもすごかった。マイケル・ジャクソンをリアルタイムで知っている人たちが多く訪れてくれましたね。「やはり映画館のスクリーンで見たい」という作品があれば、人は映画館に足を運んでくれると思っています。

-横田さん自身の映画の記憶というものはありますか?

 わたし自身、多くの映画をスクリーンで見てきた人間です。例えば現在「TOHOシネマズなんば」をはじめとして全国で開催している「午前十時の映画祭」の名作映画は、ほとんどスクリーンで鑑賞しました。

 そのとき覚えているのが、「どの映画館で見たか」なんです。映画の中身の印象とともに、見た場所がはっきりと記憶に残っているんですね。映画とはそういうものではないかと思います。自宅でDVD鑑賞もいいですが、映画館に足を運んで、多くの人たちと同じスクリーンを見ることにより、はっきりした記憶や体験になるのではないでしょうか。

 もともとこの場所にあった南街会館という劇場自体、そうした「思い出に残る場所」だったと思います。生まれ変わったこの「TOHOシネマズなんば」でも、この場所とともに映画が記憶されていけばいいな、と思います。

-最後に、今後のシネコンなどの映画館の方向性について、横田さんの考えを教えてください。

 今は携帯電話で動画が配信できる時代です。ネットでもオンデマンド配信がこれからどんどん活発になっていくんだろうなと思っています。映画館は、映画以外のコンテンツもスクリーンで楽しめるような、一種の「映像空間」として発展していくのではないでしょうか。

 映画の発表記者会見や芸人のコント番組、アイドルのライブなどを、スクリーンを通して、ここにいながらにして体験できるようなサービスをどんどん打ち出していきたいですね。もちろんそれと同時に、名画の体験のような、映画館本来の「思い出に残る映画」のための役割も守っていきたいと考えています。

TOHOシネマズ なんば


■アメリカ村のミニシアターが牽引する映画文化

シネマート心斎橋支配人 野村武寛さん

シネマート心斎橋支配人 野村武寛さん

 22年前に東京でビデオ販売会社として設立されたエスピーオーが2006年にオープンしたミニシアター系劇場「シネマート」。2006年4月には心斎橋に「シネマート心斎橋」(大阪市中央区西心斎橋1、TEL 06-6282-0815)をオープンした。若者が集うアメリカ村でミニシアター作品を上映し続ける同劇場支配人の野村武寛さんに、ミニシアターとしての映画館の役割や展望などを聞いた。

-ミニシアターの劇場が若者文化の地アメリカ村にあることについて、どう思いますか?

 アメリカ村にあるからといって若い人向けの映画ばかりを選んだりせず、いろいろな方に楽しんでいただける映画の公開を心がけています。例えば当社が権利を持っている韓流映画だったり、昔のホラー映画だったりといった特集上映も随時企画しています。

 興味のある作品が上映していれば、多少遠くてもお客さんは足を運んでくれるんだと思っています。その中で何人の人に「また来たいな」と思っていただけるかが勝負なので、居心地の良い空間作りや劇場内での宣伝、また作品の余韻に浸れるように新聞の映画評の切り抜きなどを展示したり…といったことに力を入れています。

 そうした付加価値を追求することで、時間つぶしではなく、わざわざ映画を見に足を運んでくれる人たちをつなぎとめることができるのではと考えています。

-シネコンとの違いについてはどう捉えていますか?

 シネコンさんなりの苦労もあるとは思いますが、うらやましいのは上映スクリーンが多いことですね。客足を見てスクリーン数を調整できる強みがあるなあと思っています。その点ミニシアターは多くて2スクリーンのところが多く、一度上映期間が始まってしまえば、打ち切るわけにはいきません。その分作品を選出する際は、覚悟を持って臨んでいます。

 あと、ミニシアターでかかる映画は、結末がはっきりしないものが比較的多いですね。シネコンの映画に慣れてしまった方には、今ひとつわかりにくいものも多いのではないかと思います。その分気軽に見ることができるのがシネコンのいいところなんだろうと思います。

 でもシネコンとミニシアターは競合だとは考えていません。同じミナミエリアの中でも、棲み分けがきっちりできると思っています。

-不況に強いといわれる映画館産業ですが、「自宅でDVDを見ればいい」といった声には、どう考えていますか?

 確かに自宅での映画鑑賞は、好きな時に自由に見ることができるという強みがあります。その点映画館は2時間拘束されてしまいます。ただ、大勢で同じ映画を共有できる感覚は映画館にしかないのではないでしょうか。お金を払った分、前向きに楽しもうという姿勢の方が多いのも特徴だと思います。

 わたしも映画館に足しげく通った経験があるので、「あの映画館で見た」という記憶は大事にしていきたいと思います。DVD化されている作品でも、うちにわざわざ見に来てくれるお客さまも多くて、「やっぱり映画はスクリーンで見たいのかな」と感じています。大それたことを言うなら、関西のミニシアターの中で一番思い出してくれる存在になりたいですね。「シネマートに行けば絶対面白い映画がやっている」と覚えていただける存在を目指して頑張っていきたいです。

シネマート心斎橋


■映画文化を通じた活性化を目指すNPO活動

NPOアートポリス大阪協議会理事 梅田哲さん

NPOアートポリス大阪協議会理事 梅田哲さん

 大阪市中央区で、「映画の作り手を支援しよう」という目標の下、20年にわたって活動を続けるNPO法人がある。「レイ 最初の呼吸」などインディーズの映画監督などを多く支援してきたアートポリス大阪協議会(大阪市中央区南船場1、TEL 06-6263-6137)だ。大阪の映画クリエーターに大阪の魅力を発信してもらいたいと話す梅田さんに、同団体の活動や映画作品を発信する意義について話を聞いた。

-アートポリス大阪協議会の活動について教えてください。

 映画を一つの方法として、大阪の魅力を全国に伝えていくことが目標です。その過程で、大阪で映画を作るクリエーターたちがどんどん大阪という土地を発信する支援を行えればと思っています。

 昔は限られた人しか作れなかった映画も、今では電子機器の発達で簡単に作れるようになってきました。例えばプレゼンで動画を使うのだって、れっきとした「映像を使った自己表現」なわけです。そのような「映像」という手段で、自分たちの伝えたいことを表現してもらいたいですね。

-映画や映像の魅力とはなんですか?

 作り手の熱意や技術次第で、人間を動かしていくパワーがあるのが映画だと思っています。いろいろな面白い取り組みを映像と組み合わせて、どんどん広げていくのが私たちの活動の中心となる部分です。ただ、どんな映画にも言えることですが、作られたばかりの映画は前評判が無いから判断しづらいんですね。新装開店の飲食店と同じで、事前情報が無いから腰が引けてしまいます。そこをどのように、「見てみようかな」と思わせるようにするか、それが映画における重要な課題だと思います。

-大阪という土地と映画についてはどう考えますか?

 大阪にはいろいろな観光地がいっぱいあります。その中にはまだメディアに取り上げられていない「大阪らしい場所」もたくさんあると思います。そういったところを映像で取り上げて、発信できるようにしてほしいなと。最近中国から大阪への観光客が多いと聞きますが、そういった方にもどんどんアピールできる作品を、大阪から作り出していけば、もっとエリアとしての魅力が伝わるのにと考えています。

 今は情報が武器の時代ですが、一番の情報は人だと思います。人が集まることが最大の情報を生み出すのです。大阪の魅力を発信したいという人が集まればパワーが生まれるはず。そうした方をバックアップして、大阪に自信を取り戻そうという活動を続けていきたいと思っています。

アートポリス大阪協議会
 今回は、広域なんば圏のそれぞれの場所で、それぞれの形で映画文化の浸透に尽力する3人に話を聞いた。映画をどのような姿勢で鑑賞するのか。映画をどういった方法でアピールするのか。さまざまな話が記者との間に交わされた。

 なんば経済新聞はこれからも、姿を変えて発展していく大阪の映画文化に注目していきたい。映画館や上映場所の役割が多様化する中、この3人の言葉の中から、広域なんば圏での映画の未来が少しでも読み取れれば幸いである。

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