2026年6月5日(金)、経営学部客員教授講演会「『わらしべ長者の経営学』目標を捨てて、目の前のチャンスを化けさせる」を開催しました。登壇したのは2026年度から経営学部客員教授に就任した、平安伸銅工業株式会社代表取締役・竹内香予子氏です。講演には対面とオンラインで合計約200名が参加。大阪経済大学の学生だけでなく、社会人も多く参加しました。
本講演は経営学部主催、大経大アントレプレナーシップ(ENT)塾(※)との共催で実施されました。経営学部長であり、大経大アントレプレナーシップ塾長も務める江島由裕教授は、「竹内さんは単に家業を継承するだけでなく、新たな付加価値をつけるベンチャー型事業承継をした経営者としても著名な方。考え方を学び、さまざまな刺激を受けてほしい」と冒頭の挨拶で話しました。
※大経大ENT塾:起業家精神を養い実践する課外活動で、単なる起業ノウハウではなく、事業創造の理解と実践を通じて学生の主体的成長を促す。起業家や経営者が講師として参画し、大樟春秋会(大阪経済大学 同窓会組織)の支援のもと運営。
大谷翔平選手とHIKAKIN氏から考える、成功のアプローチ

【竹内香予子氏】平安伸銅工業株式会社代表取締役。 1982年兵庫県生まれ。大学卒業後、新聞社で記者として警察・行政の取材を担当。2010年家業である平安伸銅工業に入社、2015年に父の後を継ぎ32歳で3代目代表取締役に就任。「つっぱり棒博士」として同社の主力製品であるつっぱり棒の普及に努めるほか、「LABRICO(ラブリコ)」「DRAW A LINE(ドローアライン)」「AIR SHELF(エアシェルフ)」などの新ブランドをローンチ。人々の暮らしを支える「暮らすがえ」企業の代表として商品サービスの開発、情報発信を続けている。2026年4月より大阪経済大学経営学部客員教授。
平安伸銅工業はつっぱり棒の分野でトップシェアを誇る、大阪市の生活日用品メーカー。1952年に竹内氏の祖父が創業し、竹内氏は3代目として2015年に事業を受け継ぎました。
現在は「『暮らすがえ』の文化を創る」をミッションに掲げ、事業を展開しています。可変性と仮設性があるつっぱり棒を通じ、ライフスタイルに合わせて住まいを自由に組み換えることを「暮らすがえ」と定義。自身も自宅で100本以上のつっぱり棒を使いながら、自称「つっぱり棒博士」として、その良さを伝えながら「暮らすがえ」の文化を広げようとしています。
竹内氏は自身の体験を語る前に、ゴールに向かうアプローチが真逆の成功者として、野球選手・大谷翔平氏とYouTuberのパイオニア・HIKAKIN氏の事例を紹介します。
大谷選手は、野球選手になるという確固たる目標に向けて、「マンダラチャート」と呼ばれる9×9マス、合計81のマス目を活用しました。中心に最終目標を記入し、その目標を達成するために必要な要素を分解し、具体的な行動目標を立てていく方法です。ゴールから逆算する考え方であり、「バックキャスト」とも言われます。
一方、HIKAKIN氏がYouTubeに動画を投稿し始めた当時、YouTuberという職業は確立されていませんでした。ただヒューマンビートボックスの動画を投稿し、それがバズるという予期せぬチャンスが舞い込み、ファンを喜ばせようと商品レビューやゲーム実況へと活動の幅を広げ、結果としてYouTuberという新しい職業の広がりを後押しし、業界を代表する存在になっていきました。
このHIKAKIN氏の歩みを「わらしべ長者のやり方」と竹内氏は表します。わらしべ長者とは、主人公が一本の藁(わらしべ)を元手に物々交換を繰り返すことで縁が数珠つなぎとなっていき、最終的に大金持ちになったという物語。手元にある手段から未来を広げていくやり方は「エフェクチュエーション」と呼ばれ、起業家の思考法とも言われています。
「どちらも素晴らしい方法」と前置きした上で、自身は「逆算型に窮屈さを感じていた」と竹内氏。「完璧な計画を立てるよりも、目の前の小さな縁をどうつなぎ、目の前のチャンスを化けさせていくか。そんな思考法をお話ししたい」と続けます。
スタートからゴールまで、一直線に行くだけが全てではない
竹内氏の子どもの頃の夢は、ケーキ屋さんでした。ところが、大学ではメディア学を専攻し、課外活動としてテレビ番組制作に携わり、就職活動で選んだのは新聞記者です。その後、「組織の理想をかなえるより、自ら組織を率いて結果を出す方が役に立てる」と考えた竹内氏は家業に入ることを決断します。
ケーキ屋、メディア、家業。一見すると因果関係がなさそうですが、例えば家族でケーキを囲む景色は竹内氏にとって幸せの象徴であり、抽象化すれば「家を心地良い場所にすること」に関心がありました。その視点がつっぱり棒メーカーから「暮らしをつくる会社」へのアップデートに生かされています。
また、メディアについて学び、新聞社に勤務したことで得たノウハウが、つっぱり棒に関する書籍の出版や婦人系雑誌での特集、経済番組「カンブリア宮殿」への出演につながっています。
これらは全て「わらしべ長者的なやり方」と竹内氏。目の前の藁のように小さな価値を、次のチャンスへとつなげていく。その繰り返しが、「日常生活が幸せだと思えるような社会をつくりたい」「そのために必要なプロダクトを生み出そう」と発展していき、現在の竹内氏をかたちづくっています。
わらしべ長者のやり方でチャンスを引き寄せる上で大切なのは、「やってみる」こと。失敗するかもしれないという怖さを取り除くには、「失敗は1万通りのうまくいかない方法を見つけるのに成功しただけ」というトーマス・エジソンの視点が重要です。「失敗は次のチャンスを引き寄せる重要な一歩と捉えられたら、わらしべ長者的な動きができる」と竹内氏は講演を締めくくりました。
「スタートからゴールまで一直線に行くだけが全てではありません。私の場合はマインドマップのように、一つの考えややりたいことからうねうねとチャレンジが派生していきました。それらをつなげることで、自分だけの絵を作っていくのも面白いのではないでしょうか。その先には、きっと十人十色の豊かな人生があるのだと思います」
仕事と家庭のバランスは「逆算せざるを得ない」

後半では、江島教授との対談形式での質疑応答が行われました。一児の母でもある竹内氏に仕事と家庭のバランスの取り方について尋ねると、「この点に関しては大谷選手のように逆算で考えざるを得ない」と苦笑。敵を倒して頂点に立つような「戦いのメタファーで社会に生存する思考」と、「家族と穏やかに過ごす考え方」は相性が悪いと続け、家庭の時間を先に確保した上で、残った時間でやりたいことを達成する方法を考えていると明かしました。
働き方に関しては、「選択肢があり、自分で選べることが大事」であり、自社の従業員に対しても「生活に合わせた勤務スタイルを選べるよう意識して制度を作っている」と竹内氏。「願わくば娘の時代に『女が社会で頑張るってつらいよね』と思われないようにしたい」と、その想いを語ります。
他に、「社長としてどのように社内をまとめていったのか」「商品開発のネタをどう探し、最終的なジャッジをしているのか」など、会場からは具体的な質問が多く寄せられました。
締めの言葉として江島教授は、「マインドを変えれば、失敗は『うまくいかなかったやり方を発見すること』であり、失敗するほど発見が積み重なっていく状態を経営学では『組織学習の場』という」とし、「成功や幸せは一人ひとりの考え方によって変わる。社長でも、そうでなくても、ビジネスを通じて幸せになれるというメッセージを強く感じた」と総括しました。
「正しい答えをAIが出してくれる時代だからこそ、やりたいこと、やってみたいこと、感情が動くことを大事にしてほしい」と、竹内氏は最後にメッセージを送ります。
将来の目標や進路を明確に描かなければならないと焦りを感じる人は少なくありません。本講演は、そんな不安を抱える人に対し、必ずしも一直線のキャリアだけが正解ではないと考える機会となりました。目の前の興味や出会いを大切にしながら、わらしべ長者のように自分だけの道を作っていく。竹内氏の考え方は、参加者が自身の未来を考える上で、新たな視点をもたらしたのではないでしょうか。
大阪経済大学
▼本件に関するお問い合わせ先
大阪経済大学 企画・総務部 広報課
住所:大阪府大阪市東淀川区大隅2-2-8
TEL:06-6328-2431
E-mail: kouhou@osaka-ue.ac.jp